白山比咩神社（しらやまひめじんじゃ）は、石川県白山市三宮町に鎮座する全国白山神社の総本宮であり、北陸地方を代表する古社です。通称「白山さん」として広く親しまれ、加賀一の宮とも呼ばれています。主祭神は白山比咩大神（しらやまひめのおおかみ）で、菊理媛神（くくりひめのかみ）とも称されます。この神は『古事記』『日本書紀』において、伊弉諾尊（いざなぎのみこと）と伊弉冉尊（いざなみのみこと）が黄泉の国で対峙した際に現れ、両神の和解を取り持ったと伝えられる女神です。そのことから「縁結び」「和合」の神として広く信仰を集めています。
白山比咩大神は、菊理媛神のほかにも白山の主峰・御前峰に宿るとされる「白山権現」として古代より崇められました。白山は標高2,702メートルを誇る霊峰であり、富士山・立山と並ぶ「日本三名山」の一つに数えられています。その雄大な姿は古代から人々の畏敬の対象となり、修験道の霊場としても栄えました。白山信仰は平安時代以降に広まり、加賀、越前、美濃の三国に根付き、全国に白山神社が勧請される契機となりました。その総数は全国で約3,000社にのぼるとされます。
白山比咩神社の歴史は古く、創建は崇神天皇の時代（紀元前1世紀ごろ）にまでさかのぼると伝えられています。加賀、越前、美濃の国境にまたがる霊山・白山をご神体山として祀り、以来、山岳信仰と結びついて発展してきました。奈良時代には泰澄（たいちょう）という僧侶が白山を開山し、修行の地として広めたことが大きな契機となり、白山信仰は全国に広がっていきます。
本殿は入母屋造の美しい姿を持ち、境内には広大な杜が広がっています。白山の清らかな水に育まれた自然は神域そのものであり、参道を歩けば厳粛で清浄な空気に包まれることができます。特に石段を上り詰めた先にある表参道の大鳥居や、御手洗池の水は「禊ぎの水」として知られ、参拝者の心身を清める役割を担っています。
白山比咩神社は「縁結び」のご利益で有名ですが、それだけではありません。農業神として五穀豊穣を祈る神でもあり、さらに家内安全、開運招福、交通安全など、生活全般を守護する神として厚く信仰されています。菊理媛神が「調和と和合」を司ることから、夫婦円満や人間関係の改善を願う参拝者も多く訪れます。
また、白山は加賀藩の加護を受け、前田家からも篤い崇敬を受けてきました。藩主が参拝するだけでなく、領民にも信仰が広がり、加賀百万石の精神文化を支える存在となりました。江戸時代には「白山詣で」と呼ばれる参拝が庶民の間でも盛んに行われ、白山信仰は北陸一円に強固に根付いていったのです。
白山比咩神社では、年間を通じてさまざまな祭礼が執り行われます。特に「春季例大祭」と「秋季例大祭」は盛大で、多くの参拝者が訪れます。また、元旦の「歳旦祭」や「お水取り」なども知られ、地元の人々にとって欠かせない年中行事となっています。
さらに近年では、白山の自然とともに歩む信仰の在り方が注目され、登山者や観光客も多く訪れるようになっています。霊峰白山の登拝道は「加賀禅定道」「越前禅定道」「美濃禅定道」と呼ばれ、古来より修験者が歩いた道を現代の登山者も体験できるのです。山岳信仰の場と神社信仰の拠点が一体となっているのは、白山比咩神社ならではの特色です。
総じて、白山比咩神社は「縁結び」「和合」の神であると同時に、自然の恵みに感謝する心を伝える聖地であり、日本人の精神文化を深く映し出しています。白山の雄大な自然とともに歩んできた信仰の歴史は、訪れる人々に「和を尊び、自然と共生する心」の大切さを静かに語りかけています。参拝者はこの地を訪れることで、単なるお願いごとではなく、自身と周囲の調和を見つめ直す契機を得ることができるでしょう。
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